top of page

第1回
FDer​
インタビュー

話し手:加藤かおり

聞き手:中島夏子、ホートン広瀬恵美子

日時・場所:2014年2月20日 湘南国際村センター

 

大学・大学院時代の専門分野・専攻(学部・大学院・博士課程)を教えてください。

 FDと一見、関係ないと思われるかもしれませんが、大学と大学院では教育哲学を専攻していました.ドイツ哲学が専門です.しかし、この後にもお話しますが、今の仕事をしていて、教育哲学とFDとのつながりを感じることが多くあります.

FDerになるまでの経歴、FDerになるきっかけは?

 大学院生の時に国立教育政策研究所で生涯学習の調査研究のお手伝いをさせていただいた縁で、新潟大学の大学教育開発研究センターの生涯学習部門に就職をしました.「生涯学習部門」というと、FDとどのような関係にあるのかと思われるかもしれませんが、例えば大学教員に対して教育の方法について教えるといったFD活動は、成人に対する教育という観点から考えると「生涯学習」とらえることもできますよね.その頃はまだFDとは何かについての合意さえもない時代でしたが、私はこのような考え方でもってFDという領域の開発に臨みました。

 この部門ではその後、国立大学の法人化やFDの義務化といった時代の流れの中で、FDに関する研究を業務の一つとするようになり、私はイギリスのFDについての調査を担当しました。それがFDに関わるようになった直接的なきっかけです。その当時は今のようにFDの方法論についての蓄積はありませんでしたから、イギリスでの調査の結果を踏まえながら、市民を対象として行っていたワークショップを改良するなどして、初期のFD活動を行いました。

 以上話したことは、結果として、そうなったというのが正確で、社会に求められているもの、自分にできることを続けていたら、いつのまにかFDerになっていたというのが偽らざる実感です。

主要な業務は?

 今の私の仕事をミクロ、ミドル、マクロのレベルで説明すると次のようなものです。まず、ミクロレベルでは、学内外の新任教員研修といったプログラムの企画や実施があります。ミドルレベルは学部の初年次教育のカリキュラム開発の支援です。そして、広い意味でのマクロレベルでは、教育職としての大学教員の専門職化を目指した研究を行うことです。また、その研究を通じて、FDerとは何か、どのような仕事をするべきなのかについても明らかにしていきたいと考えています。

 このようなミクロ―ミドル―マクロのそれぞれの活動は相互に影響しており、研究で明らかになったことが日々のミクロレベルの活動の在り方に示唆を与え、その活動がまた研究への知見を与えるといった役割を果たしています。

FDerとしてのやりがいは?

 やりがいを感じるのは、自分の仕事が周りに影響を与えられた時です。先ほどミドルレベルの仕事として学部の初年次教育のカリキュラム開発の支援を行っていると言いましたが、これはその学部の担当者が新任研修に参加してくれたことがきっかけで生まれた仕事です。この新任研修は学内だけではなく、学外からの参加者も受け入れているのですが、その参加者がそれぞれの大学で同じような研修を実施しようと動いてくれたこともあります。このように仲間が学内外にでき、教育改善の動きに広がりがもたらされた時にやりがいを感じます。

 FDというと多くの先生方が教授法に注目しがちで、それを求めてFDerの私のところに来てくださるのですが、それ以上に学習者中心の教育という考え方や価値観を多くの人に持ってもらうことが重要だと私は考えています。学習者中心の教育というと、例えば学生の学力が低いからそうすべきだと捉えられることが多いですが、大学という場がそもそも知識を創造し伝達する場であるならば、その教育の主体である学生を中心にするのは当然のことです。もちろん、このような価値観は多くの先生方は既に多かれ少なかれ持っているものですが、日々の仕事に忙殺される中で見失いがちです。私が特にやりがいを感じるのは、こういった考え方や価値観が再確認され、そして広がっていくのを実感できた時です。このように大学教育の原点から考えるのは、冒頭でも紹介しましたが、哲学を専攻しているからかもしれません。

FDerとしての苦労はありましたか?

 日本におけるFDはまだ発展途上で、その領域でどのような仕事があるのかが必ずしも明確ではありません。ですので、組織の上層部からの理解を得るところから始めなければならない事に苦労を覚えます。しかも、その組織の構成員が変わるたびに、それをしなければならないので尚更です。例えば、ワークショップ型のFD活動を始めようとした時には、上層部からの理解が得られず、事務職員の方からは「参加者がいるわけがないから無理だろう」と言われ、結局、実施するまでに2年かかりました。実際に小規模でやってみると、参加者からの評判はよく、今ではワークショップ中心にやっています。このように前例がないことをやるというのは、やりがいにもつながりますが、やはり大変ですね。

働く上で気をつけていることはありますか?

 第一に、いいと思うことは口に出して言うことです。例えばワークショップ型の研修を実施した時もそうだったのですが、人は聞いたことのない事を急に提案されると反対しがちですが、聞いたことのある、あるいは経験を少しでもしたことがある事については抵抗が少なくなります。ですから、日頃から言葉にしたり、小規模でもいいからやってみたりすることを心がけています。

 第二に、学生をうまく巻き込むことです。FDという活動は、教員から「自分の授業に対してあれこれ指導される」と忌避されることも多いのですが、多くの教員は学生の成長を願って日々教育されているので、「学生のためには~した方が良い。」とか「こうしたら学生の成長につながった。」というように、その活動が学生の成長につながるのだということを全面に出すことによって、話を聞いてくれるようになります。

 最後に、支援や助言をする際には、その教員がすでにやっていること、やっているけれどうまくいっていないことにつなげていくように気をつけてもいます。全く何もしていない人、何も考えていない人はいないので、その人が既に持っているものに注目し、それを引き出すように活動することが大事だと考えています。

今後5年間の目標を教えてください。

 個人的な目標は、先ほどマクロレベルの仕事として挙げた、専門職化を追究していくことです。その際に、これまでFDerとして活動してきた中で得られた自分の知見やスキルを踏まえることで、実践的な視点を組み込んでいきたいです。そして、そうすることで、これまでの活動を体系的に整理していきたいです。

FDerを目指す人へのアドバイスをお願いします。

 これは私がイギリスで調査をした時に、SEDA(Staff and Educational Development Association)という組織の所属する人から聞いた話なのですが、FDerは挑戦していきたいという気持ちと同時に、仲間同士で助け合うというマインドが大事です。ですから、こういったマインドを持ち、人に寄り添うことが嫌でなければ、FDerに向いているのではないでしょうか。私自身は、こういった人たちがより気持ち良く働いていけるよう、先ほど「今後5年間の目標」で紹介した研究を進めているところです。お互い、頑張りましょう。

bottom of page